続・面白いエピソード集

「面白いエピソード集」第一弾では、『東海道中膝栗毛』全八編(十七巻)の中から、入門編としてまずは押さえておきたい面白いエピソードを3つ紹介しました。

面白いエピソード3選
初編より、入門編として押さえておきたいエピソード1選
「弥次さんと喜多さんは旅先の女と”一夜限りの関係”を持つことができるのか?」

最終話となる八編より、ラストシーンのエピソード1選
「旅のラストに弥次さんは”男妾”として生きる道を選ぶのか?」

残り二~七編の中から、選りすぐりのエピソード1選(三編より)
「巫女の口寄せで亡き妻と再会。その後の夜這いで巫女との口づけは叶うのか?」

1年経った今見返してみても、このセレクトに迷いはありません。しかし初編と最終編を優先的に入れたために、二~七編の中から1エピソードというのに物足りなさを感じるのも事実です。

『東海道中膝栗毛』は江戸時代に8年続けて毎年新たな編(初編~八編、十七巻)が刊行されて、そのたびに人気はうなぎのぼりになっていきました。作者の十返舎一九は、初編、二編と書き進めるうちに筆が乗ってきたのでしょう。読み物としてのおもしろさで真骨頂を発揮するのは「三編から五編にかけて」というのが私の個人的な評価です。

作品の中盤にはまだまだ隠れた面白い且つ衝撃的なエピソードが存在します。そこで第二弾では「続・面白いエピソード集」として、思わず話のネタにしたくなるような、「四編・五編・五編追加」のエピソードを重点的に選びました。

弥次さん喜多さんの旅の目的である伊勢参りのラスト(五編追加に収録)まで、1つ目より2つ目のエピソード、2つ目より3つ目のエピソードと、より「なんじゃこりゃ」感が増していく、珍名作集的なやじきたワールドがお楽しみいただると思います。

今回もぜひお気に入りの名場面、珍場面を見つけてみてください。

【注意:ここからネタばれ有り】

スポンサーリンク

続・面白いエピソード3選(episode4~6)

【episode4】宿で新婚夫婦と割床に。ふすま一枚隔てた「初夜の睦言」に、すけべえな弥次さん喜多さんはどう出るのか⁉(四編より)

『東海道中膝栗毛』では、弥次さんと喜多さんが旅の各滞在先で、女をめぐって毎晩ドタバタ劇を繰り広げるのがお約束になっています。

そのやらかし具合では中年おやじの弥次さんに何かと軍配が上がりがちですが、さすがは旅を共にする者同士。いつもそそっかしい弥次さんに対して、直球で行動して恥をかくのが喜多さんなのです。

今回紹介する夜の一幕では、スケベ心丸出しな喜多さんが、新婚夫婦を相手に盛大にやらかします。『膝栗毛』の型となるような定番エピソードとして、ここからはストーリーの流れをお楽しみください。

さかのぼること夕暮れ時。2人が道を急ぐ「御油のマツ並木」では、悪いキツネに旅人がよく化かされると噂されていました。それを信じた弥次さんは、喜多さんの尻に手をやり、あの手この手でしっぽを出させようと躍起になって(はた迷惑な…)、最終的には喜多さんの身体を縛って連行するかたちで赤坂宿(現愛知県豊川市)までやって来ます(さらに厄介な…)。

2人が泊まることにした赤坂の旅籠では、宿の亭主の甥っ子の婚礼が行われていました。宿泊客の2人にも特別に酒や肴がふるまわれますが、まだキツネに化かされている疑いが晴れない弥次さんは、豪華な食事を前に「油断はならぬ。どうせ馬の糞や犬の糞だろう」といちゃもんを付けて周りを困らせます。しかし食い意地が勝ったことで、ご馳走を前にようやくキツネの呪縛を解くことができました。

一方の離れ座敷では、早くも婚礼の盃ごとが始まり、謡の声が聴こえてきます。そんな中、女中が弥次さんと喜多さんの部屋に布団を敷きにやって来ました。さっそく2人は嫁の容姿を尋ねます。

喜多
喜多

これ女中、祝言はもう済みやしたか。きっと嫁御は美しかろう

女中
女中

あいさ、婿様も良い男、嫁御様もえらい器量良しでおざります。お気の毒なことは、あちらの座敷に寝やしゃりますから、睦言が聞えましょ

弥次
弥次

なんだ、そんな連中との割り床は閉口だ

女中
女中

もうお静まりなさいませ

なんと、新婚夫婦と弥次さん喜多さんは、ふすま1枚隔てて寝床が隣り同士だというのです。そんな状況に何も起きないわけはなく――。

婚礼後、隣り座敷では婿と嫁が仲睦まじく布団に入ります。色恋のあげくに貰った嫁らしく、2人は初対面とは見えず、ひそひそ声で話しながら、ぶったり、つねったりしていちゃついている様子が手に取るように聞こえてきます。

弥次
弥次

とんだ目にあわしやがる

喜多
喜多

本当に悪い宿をとった。人の心も知らずに、なんだかおそろしく睦まじいな。畜生め

弥次
弥次

さあ、話し声がやんだから、これからが難しい

新婚夫婦の仲睦まじい声がやんだところで、弥次さんはそっと起き出し、ふすまの隙間から向こうの部屋を覗きます。嫁の容姿が気になる喜多さんも裸のまま起き出して覗こうとしますが、夢中になるあまり、2人分の重みでふすまがバタンとあちら側に倒れて、2人共に隣り座敷へと転げ出てしまいました。

婿と嫁はびっくりして跳ね起き、行灯あんどんもひっくり返して真っ暗闇に。弥次さんはすかさず逃げて自分の寝床へ入り込みますが、裸のままの喜多さんはまごまごして婿に捕まってしまいます。

さらに行灯をひっくり返したことで夜着も油まみれになった婿は、大声で「誰ぞ早く寄こしてくれぬか」と宿の人を呼び立てます。

こちらへ向かう宿の人。訳が分からず憤慨する婿。「トイレに行くはずが迷い込んでしまった」と無理な言い訳しかできない喜多さん。

本来ならば「どうする喜多さん⁉」と固唾を呑む場面のはずですが、もはや最も災難なのは、やっかいな2人組の旅人と割床になってしまった新婚夫婦なのでした。

このような夜の恥さらしは、もはや毎晩のお約束。次のエピソードからは、旅先で出会う個性豊かな人々に巻き込まれるかたちで、面白さと衝撃度合いが一気にレベルアップしていきます。

スポンサーリンク

【episode5】作者の十返舎一九に成りすました2人は、どこまでこの設定を貫けるのか?(五編より)

旅の中盤となる五編では、2人は追分から伊勢街道を進んで、旅の目的地である伊勢神宮へと向かいます。

もはや東海道の要素はみじんも無し。タイトルが『東海道中膝栗毛』にも関わらず、「東海道の旅は作品の前半まで」というのは、この作品最大の驚きのエピソードとしてぜひとも推奨していきたいところです。

さて、弥次さんと喜多さんは伊勢街道の上野宿(現三重県津市)に到着しました。そして2人が詠む歌に感心したという男から「貴方の御狂名は何とおっしゃいますか」と尋ねられたところから、話は突如新たな世界線へと突入します。

弥次
弥次

わっちゃあ、十返舎一九と申しやす

!!!!!!!!!

なんと弥次さんは狂名(狂歌の作者としての号)を聞かれて、『膝栗毛』の作者である十返舎一九を名乗ります。多くの読者が一同に衝撃を受けただろう一言ですが、次に続く会話もまた新たな衝撃をもたらします。

南瓜の胡麻汁
南瓜の胡麻汁

ははぁ、御高名を承り及びました。十返舎先生でござりますか。私は、南瓜かぼちゃ胡麻汁ごまじると申します。今度は御参宮でござりますか

弥次
弥次

左様さ。かの膝栗毛と申す書を著すために、わざわざ出かけてまいりました

南瓜の胡麻汁
南瓜の胡麻汁

確かに、あれは御妙作でござります

なんと弥次さんとこの男(その名も、南瓜の胡麻汁)は、十返舎一九が書き進めている、弥次さん喜多さんが主人公の『膝栗毛』をよく存じ上げているというのです。

「どんな設定だ?」と突っ込みどころ満載のなか、胡麻汁は、近所の狂歌仲間たちに引き合わせたいので自宅に泊まってほしいと申し出ます。御高名な十返舎一九先生(実の名は弥次郎兵衛)、秘蔵弟子の十返舎南鐐なんりょう(実の名は喜多八)、歌をたしなむ南瓜の胡麻汁の3人は、胡麻汁の自宅である雲出宿(現三重県津市)の旅籠屋へと向かいます。

石にコンニャクを乗せて食べるユニークな郷土料理でもてなされているうちに、次々と近所の狂歌仲間たちが集まってきました。その名も、小鬢長兀成こびんちょうはげなり(=こめかみが禿げている)、富田茶賀丸とんだちゃがまる(=美人娘の代わりにやかん頭の禿げオヤジが店に出たのを「とんだ茶釜がやかんに化けた」と言った当時の流行語に由来)、反歯日屋呂そっぱひやろ水鼻垂安みずはなたれやす金玉きんたま嘉雪かゆき…。まるでギャグ漫画の世界のようなおかしな名前の数々ですが、当時はこのようにふざけた狂名を名乗るのが、狂歌詠みの習わしでした。

さっそく南瓜の胡麻汁が「ときに先生、御面倒ではござりましょうが」と、短冊などを手に、歌をしたためるよう弥次さんに求めてきます。弥次郎兵衛あらため十返舎一九はもっともらしくそれを受け取りますが、これぞという歌が思い浮かばず、有名な歌人の歌を書いてその場をしのごうとします。

「きぬぎぬの 情けを知らば 今ひとつ 嘘もつけや 明六ツの鐘 十返舎一九(←嘘)」

しかしさすが狂歌をたしなむ胡麻汁のこと、その目はごまかせません。十返舎一九こと弥次さんも持ち前のずうずうしさで「わたしの詠み歌」だと反論しますが、なんとこの家には南瓜の胡麻汁が江戸で千秋庵先生ご本人に書いてもらったという、先ほど弥次さんが書いた歌が飾られていました。

秘蔵弟子の十返舎南鐐こと喜多さんも、「先生はそそっかしい人で、人の歌と自分の歌の区別はしない」などと、弥次さんの面目をなくす発言でフォローしようと頑張ります。しかしここで狂歌仲間の髭面ひげつらさまから手紙が届いたことで、”十返舎一九先生”に最大のピンチが訪れるのです。

手紙
手紙

ちょっと申し上げそうろう。ただ今江戸から私宅に十返舎一九先生が到着したでそうろう。さっそく胡麻汁の噂もしておいたので、このあと貴宅へ先生を案内いたすそうろう(意訳)

髭面さまからの手紙を読んだ胡麻汁は、「まもなくここに本物の十返舎先生が参られるのだから、こいつは偽物だ。偽物のこ奴と引き合わせてやろう」と、急に態度を一転させます。

水鼻垂安や金玉の嘉雪ら他の狂歌仲間たちも皆、先ほどから「十返舎先生」のふるまいを見て納得しかねていたので、こいつの化けの皮を剥がしてやろうと、弥次さんの正体に関わる鋭い質問や返しで問い詰めていきます。

南瓜の胡麻汁
南瓜の胡麻汁

いや確か、あなたがたのお笠に江戸神田八丁堀、弥次郎兵衛と書きつけておったが、その弥次郎兵衛さまというは、誰さんの事じゃいな

弥次
弥次

はぁ、聞いたような名だが、誰でかあったか。おお、聞いたはずだ。わしが実名を弥次郎兵衛と言いやす

南瓜の胡麻汁
南瓜の胡麻汁

ハハァ

十返舎一九の『膝栗毛』を読んで妙作だと思っている胡麻汁も、どうやらその主人公である神田八丁掘の弥次郎兵衛が、ここにいる人物と一緒だとはつゆほども思っていないようです。最終的には「偽物はさっさとここを出て行くように」と言い放ちます。

メッキが剥がれた弥次さんと喜多さんは、にっちもさっちもいかなくなり、真夜中に逃げるようにここを立ち去ることになりました。続いて暗闇をさまよう2人に幽霊騒動が起きるのですが、もはや幽霊より不可思議な、パラレルワールドのような『膝栗毛』が繰り広げられる五編の貴重なエピソードなのでした。

スポンサーリンク

【episode6】妊婦と間違えられた弥次さんは、産婆の付き添いで出産に挑む‼ その破茶滅茶な顛末は?(五編追加より)

『東海道中膝栗毛』の五編には、「五編追加」という別冊が存在します。ここまで旅を続けてきた弥次さんと喜多さんが伊勢神宮に参拝する五編追加は、まさにこの旅の象徴的な場面と言えます。

内宮への参拝では、弥次さんも喜多さんも珍しく洒落も無駄口も言わず、深く感じ入って思わず涙を流します。続いて外宮に参拝しますが、さすがは滑稽本の権威である十返舎一九先生のこと。ここから先は伊勢参りのクライマックスに向けて、感動とは別のベクトルへ『膝栗毛』の本領を思う存分発揮することになります。

外宮で2人は、いくつかのお宮やたくさんの末社を拝み巡って、高倉山の天の岩戸に登ったところで、どうしたことか弥次さんが腹痛で苦しみ始め、早々にここを降りることにしました。

急いで広小路に行き、宿を借りようと辺りを見渡していると、ある宿の亭主が腹痛にうめく弥次さんを気にかけ、宿に招き入れてくれました。亭主の妻は妊婦で、昨日から体調が優れず、ちょうど今医者を呼んだところだと言います。「あなたも(医者に)見てもらいなせんかいな」と、親切にも医者の手配をしてもらえることになりました。

そのうちに肩の所がすりきれた黒縮緬の羽織を引っ掛けた坊主頭の医者がやって来て、「エヘンエヘン、これは不順な天気具合でござる。どれ、お脈を」とすでに怪しげな雰囲気を漂わせながら、喜多さんのそばに座り、見るからに元気な喜多さんの脈を診はじめます。

「達者な人の脈から見比べねば、病人の脈が分からんわいの」などと屁理屈を言いながら、明らかに病人の診療は避け、元気な人の診察に力を入れる医者との珍妙なやりとりが続きます。ようやく弥次さんの番が回ってきますが(肝心の妊婦は⁉)、産み月の妊婦を診てほしいと呼ばれて来たこの医者は、弥次さんがその妊婦だと信じて疑わず、もっともらしい顔で今度は弥次さんの脈を診はじめます。

医者
医者

ハハァ、貴公はこりゃ血の道(=妊娠時の身体症状)じゃわいの。とかく臨月などに起こるものじゃ

弥次
弥次

いや、わたくしはらんだ(=妊娠した)覚えはござりませぬ

医者
医者

なに、懐妊でない。はて、面妖(=不思議)な

すでに皆から藪医者だと見破られているところに、急に勝手(台所)のほうが騒がしくなって、妊婦は産気づき、弥次さんはさらに腹が痛み出します。

亭主
亭主

こりゃこりゃ、取り上げ婆(=産婆)殿へ人をやれ。それ久助(=下男)は湯を沸かせ。早め(=出産を早める薬)はあるか。はよう、早う

弥次
弥次

アイタタタタタ

この状況に、もともと医者の腕はない藪医者は「こりゃ、たまらんたまらん。病人のそばにはおられぬ」と逃げ出していきました。同時に産婆が到着しますが、下女がうろたえて産婆の手を取り、「こちらへ、こちらへ」と弥次さんが布団をかぶって寝ているところへ連れて来てしまいます。

亭主を除いて登場人物がくせ者揃いの中、やって来た産婆は高齢で相当に目が悪く、実はあまり見えていませんでした。布団で腹痛に苦しむ弥次さんを見て、出産に立ち会うためにこの部屋に呼ばれて来たものだから、彼が妊婦だと藪医者以上に強く思い込みます。

さっそく彼女は「取り上げ婆」として、そこにいる喜多さんの助けも借りながら、弥次さんの「出産」に向けたプロの仕事を開始します。

産婆
産婆

さぁさぁ、コレコレここへ来て、誰ぞ腰を抱いてくだんせ。さぁさぁ、はよう早う

江戸時代当時は今の出産とは異なり、座って産む「座産」が一般的でした。そのため産婦の腰を抱いて布団の上に座らる指示を出します。喜多さんはとぼけた顔で、産婆の指示通りに弥次さんの腰を抱いて身体を引き起こします。

弥次
弥次

こりゃ、喜多八どうする。あぁ痛てぇ痛てぇ

産婆
産婆

そないな気の弱いことではならんわいな。ぐっといけまんせ、息まんせ(=腰に力を入れてりきんで)

なぜ誰も本物の妊婦のもとに産婆を連れ戻さない⁉と読者として思いつつ、そもそも腹が痛いおやじにすぎない弥次さんを無理に産ませようとするものだから、産婆の行動はさらにヒートアップしていきます。

弥次
弥次

ここで息んでたまるものか。雪隠へ行きてぇ。離した、離した

産婆
産婆

出るから、息まんせと言うのじゃわいの。ソレ、ウウン、ウウウウン、ウウウウン、そりゃこそ、もう頭が出かけた、出かけた

弥次
弥次

アイタタタタタ、そりゃ、子ではねぇ。それをそんなに、ひっぱらしゃんな。あぁコレ痛てぇ、痛てぇ

なんとこの産婆、弥次さんが痛がりもがくのも構わずに(むしろ余計に)、例の玉を勢いよく引っ張って、「もう頭が出かけた」と勘違いし始めます。腹を立てた弥次さんは「このババアめ!」と産婆の横っ面を張り飛ばすも、無事出産するまでが仕事の産婆は「この血狂い!」と必死で「妊婦」に離れないようにむしゃぶりつきます。

このような騒ぎの中、早くも(本物の)産婦は安産と見えて、「おぎゃぁ、おぎゃぁ」と赤ん坊の泣く声が聞こえてきました。狼狽え回る産婆に、便所に駆け込む弥次さん。

産婆
産婆

そりゃこそ(=思った通りに)産まれた。イヤここじゃない。どこじゃいな、どこじゃいな

亭主
亭主

コレコレ婆さま、さっきにから探しておるに、もう産まれたわいの。早う、早う

産婆を探し出すのが遅すぎる亭主(妊婦の夫)。そこに「便所で思いっきり安産したら、すっきりした」というタイミングが最悪な弥次さんも加わって、「三国一の玉のような男の子が産まれた」「めでたい、めでたい」と喜びの声が飛び交います。

大変な時に産婆を独り占めしたあげく、すっかり良くなった弥次さんに「それは、あなたもおめでたい」とニコニコ喜ぶ亭主はやはり良い人で、空気は一転なごやかに。弥次さんと喜多さんも加わって皆で喜びの酒を酌み交わし、産婆の間違いやらも皆で大笑いして、五編追加の最後は「めでたし、めでたし」と伊勢での大円団で終わるのでした。

めでたし、めでたし。

スポンサーリンク

まとめ

新婚夫婦の初夜をのぞき見(episode4)。十返舎一九とその弟子を名乗る2人と狂歌詠みたちの奇妙な交流(episode5)。妊婦と間違えられた弥次さんと産婆の破茶滅茶なやりとり(episode6)。いずれも婚礼や出産などおめでたい場に立ち会い、宿の亭主(南瓜の胡麻汁含む)に最初は歓迎された上での一騒動という内容になっています。

江戸時代の大衆の心を掴んだ『東海道中膝栗毛』は、旅先の道ゆく場面ごとに欠かさず滑稽なエピソードが盛り込まれています。長編作品であり、エピソードがあまりに多岐にわたるため、「どのシーンが好き」というのは読む人によって意見が分かれるのではないかと思います。

しかし「面白いエピソード」としての王道を選ぶならば、他の人が選んだとしても、第一弾と合わせて紹介した6のエピソードとかなり重複するはずです。

例外として、今回は取り上げませんでしたが「弥次さん喜多さんのエピソード」としてわりと広く語られているのが、『東海道中膝栗毛 発端』のストーリーです。シリーズ作の番外編となる「発端」では、2人が出会い旅に出るまでの出来事が描かれており、八編の完結から5年後に刊行されました。弥次さんと喜多さんの経歴として初めて明かされる衝撃の設定が様々に登場します。

正直、発端を「面白いエピソード」に加えるかは少しだけ迷いました。しかし間違いなく「衝撃のエピソード」ではあっても、「面白いエピソード」に含んでよいかを考えると、完全にカテゴリーが異なります(発端を読んだ方なら、これを「面白い」と紹介するのはためらうことに共感してもらえると思います)。

発端のエピソードは、また別枠の「エピソード解説」のようなかたちでそのうち紹介できたらと思っています。

『東海道中膝栗毛』の現代語訳や解説記事も随時更新しているので、ぜひ読んでみてください。

現代語訳『東海道中膝栗毛』

『東海道中膝栗毛』総合解説

十返舎一九の経歴(故郷の静岡編)

総合ページに戻る

タイトルとURLをコピーしました