江戸時代の浮世絵をコレクションする美術館・博物館・図書館は国内外含めて各地に存在します。
一方で、所蔵する浮世絵コレクションをパブリックドメイン(著作権フリー)作品としてネット上で公開し、誰もが自由にダウンロードや画像利用できるようにしている文化施設、とりわけ美術館が圧倒的に多いのは海外です。
浮世絵が豊富なデジタルアーカイブ、とりわけ「有名な浮世絵師のあの作品はどこでダウンロードできるのか」といった探し方をすると、途端に見つけるのが難しくなるのが現状ではないでしょうか。
この記事では、次のような用途に役立つ情報をまとめています。
● 葛飾北斎や歌川広重の代表的な作品を無料で利用したい。
● 北斎の有名な富士山や波の浮世絵は、どこでダウンロードできるのか知りたい。
● 広重の「東海道五十三次」全地域の浮世絵は、どこで揃えられるののか知りたい。
● 様々なダウンロード先がある中で、各サイトを用途別に比較したい。
筆者が必要に応じて情報収集してきたものをここに集約しています。情報は2025年5月時点のものです。
1.浮世絵を総合的に探すなら – 有名なコレクションサイト2選
浮世絵コレクションのデジタルアーカイブとして、「有名な作品を多く所蔵し、作品数が豊富で、所蔵機関として信頼できる」の3つの要素を満たすサイトとして、最も広く名前が挙がるのが「メトロポリタン美術館」と「シカゴ美術館」です。画質も非常に良く、作品検索からダウンロードまでの使い勝手も非常に良いのが特徴です。
イメージに合った浮世絵を探すのにおすすめ!シカゴ美術館
アメリカの三大美術館の一つ「シカゴ美術館」は、世界有数の浮世絵コレクションを所蔵しています。代表的なものとしては葛飾北斎の「富嶽三十六景」シリーズ、歌川広重の「東海道五十三次」や「名所江戸百景」シリーズなどが挙げられます。
シカゴ美術館は、収蔵品の中からパブリックドメイン作品(著作権の保護期間が満了したいわゆる著作権フリー作品)を画像データ化し、誰もが作品を利用できるようにデジタルアーカイブを開設しています。
それが「THE COLLECTION」(通称シカゴ美術館コレクション)です。

絵師の名前で検索すると、「Utagawa Hiroshige」(=歌川広重)1595件、「Katsushika Hokusai」(=葛飾北斎)841件の作品がヒットします。作品名では「Fugaku sanjūrokkei」(=富嶽三十六景)173件、「Tokaido gojusan tsugi」(=東海道五十三次)2609件と表示されます。
「『東海道五十三次』が2609件⁉」と驚異的な数字が出てくるのは、後半に別の絵画や公開準備中のページが連なっているからです。しかしチェック形式の作家別フィルター検索でも広重作品は1595件なので、作品数が豊富なのは疑いようのない事実です。
世界有数の浮世絵コレクションを所蔵し、パブリックドメイン作品として公開。浮世絵の画像利用で最初に訪れるサイトとしておすすめ!
【メリット】絵師名で検索すると、その絵師の人気作がわりと上位に表示されるので、スクロールして一気に作品を閲覧するのに最適。イメージに合った浮世絵を探す人向け。
【デメリット】検索で表示される作品数が多すぎるため、目的の作品に沿った絞り込み検索には難あり。(例:「『東海道五十三次』のこの場面の絵を使いたい」といった場合は不便)
作品の探し方やサイトの使い方の詳細は、以下の記事をご覧ください。
目当ての浮世絵を探すのにおすすめ!メトロポリタン美術館
アメリカの「メトロポリタン美術館」は、世界三大美術館の一つです。浮世絵コレクションも世界有数で、非常に充実しています。葛飾北斎の「富嶽三十六景」や「北斎漫画」、歌川広重の「東海道五十三次」や「名所江戸百景」、他にも歌川国芳や喜多川歌麿の浮世絵など、有名どころはひととおり揃っている印象です。
メトロポリタン美術館も、収蔵品の中からパブリックドメイン作品(著作権の保護期間が満了したいわゆる著作権フリー作品)を画像データ化し、誰もが作品を利用できるようにデジタルアーカイブを開設しています。
それが「The Met Collection」(通称メトロポリタン美術館コレクション)です。

絵師の名前で検索すると、「Utagawa Hiroshige」(=歌川広重)723件、「Katsushika Hokusai」(=葛飾北斎)448件の作品がヒットします。作品名では「hiroshige the Fifty-Three Stations of the Tokaido」(=東海道五十三次)73件、「Fugaku sanjūrokkei」(=富嶽三十六景)127件と表示されます。「Hokusai manga」(=北斎漫画)を始め、書物の挿絵が充実しているのも特徴です。
ちなみに「東海道五十三次」は55枚(53駅+起点の日本橋と三条大橋)のうち、33枚目(白須賀)から55枚目(三条大橋)までは全て揃っていますが、前半は無いものが多いです(日本橋は有り)。
ただし風景画の順番がばらばらなアーカイブが多い中で、近い地域がわりとまとまって並んでいるので、目当ての浮世絵が非常に探しやすいのが特徴です。検索も「作品名 地域」(例「tokaido nihonbashi」)で絞り込みがしやすいです。
世界有数の浮世絵コレクションを所蔵し、パブリックドメイン作品として公開。特に作品名の知識がある方は、浮世絵の画像利用で最初に訪れるサイトとしておすすめ!
【メリット】作品が豊富なうえに、絞り込み検索の精度が高い。「この絵師のこの作品」とピンポイントで作品を探すのに最適。目当ての浮世絵が探しやすい。
【デメリット】絵師名で検索すると、代表的な作品が下のほうに埋もれがち。作品名での検索がポイントになる。
2.北斎と広重の代表作を探すなら – 目的に特化したコレクションサイト2選
良質な北斎の浮世絵を多数所蔵!大英博物館
イギリス・ロンドンの大英博物館は、複数のコレクターから入手した世界でもトップクラスの優良な葛飾北斎コレクションを多数所蔵しています。2022年には東京のサントリー美術館で、大英博物館が所蔵する北斎作品を中心にした展覧会「大英博物館 北斎―国内の肉筆画の名品とともに―」が開催されました。
大英博物館もデジタルアーカイブを公開し、誰でも自由にパブリックドメイン作品をダウンロードできるようにしています。
British Museum collection(大英博物館コレクション)
絵師の名前で検索すると、「Katsushika Hokusai」(=葛飾北斎)1071件、「Utagawa Hiroshige」(=歌川広重)1454件の作品がヒットします。画質がすごくいい!、そして種類が多すぎる!というのが第一印象です。関連書物がかなり多いのに加えて、関係のない作品もかなり混じっているようです。
そのため作品名での検索がおすすめです。北斎の「Fugaku sanjūrokkei」(=富嶽三十六景)は125件。種類が豊富で良質なコレクションが揃っていることが一目で分かるはずです。さらに「富嶽三十六景」の人気作品「Kanagawa-oki nami-ura」(=神奈川沖浪裏)を検索すると、少しずつ色味の異なる波の浮世絵が5枚もあります。

歌川広重の「Meisho Edo hyakkei」(=名所江戸百景)は193件で、こちらもかなりおすすめです。

検索はやや使いづらい部分があるものの、日本の作品はキャプションに日本語表記も出てくるので、何の作品かが分かりやすいです。
●複数のコレクターから入手した世界でもトップクラスの優良な葛飾北斎コレクションを所蔵
●画質がきれいで種類が豊富。「神奈川沖浪裏」は5枚所蔵。
●北斎作品はもちろん、歌川広重の「名所江戸百景」もおすすめ。
「東海道五十三次」全地域が揃う!ニューヨーク公共図書館
風景画の中でもとりわけ「東海道五十三次」は、イメージで好みの浮世絵を選ぶというより、「この地域の広重の浮世絵を使いたい」といったニーズが多いのではないでしょうか。
しかし広重作品のコレクションが豊富な美術館は数多くあっても、そのほとんどは「東海道五十三次」の全地域を揃えていません。ましてやデジタルアーカイブを公開し、自由にダウンロードして使用できる所蔵館の中で、「東海道五十三次」全地域を揃えることができるのは、筆者の知る限りニューヨーク公共図書館のみです。
NYPL Digital Collections(ニューヨーク公共図書館デジタルコレクション)

注意点として、検索ワードによってうまく表示されないことが多いです。例えば「Utagawa Hiroshige」では26件しか表示されませんが、「Hiroshige」で126件ヒットします。「Tokaido」でも全ての絵が表示されないので、特定の絵を探す場合は「hiroshige nihonbashi」といった具合に「広重+地域名」で検索することをおすすめします。
地域名(絵のタイトル)を参照するのには、Wikipedia「東海道五十三次 (浮世絵)」のリストが非常に参考になります。
また、ここは美術館ではなく図書館なので、絵画よりも書物や地図のコレクションが充実しているのが特徴です。「北斎漫画」のコレクションも充実しています。
●「東海道五十三次」の全地域の浮世絵が揃う。
●他の美術館サイトと異なり、表示されやすい検索ワードが異なるので注意が必要。
●図書館のデジタルアーカイブなので、書物(例えば「北斎漫画」)や地図コレクションも充実。
3.作品検索のポイントと利用のルール
作品検索のポイント
①各リンクからウェブサイトを開きます。
②検索窓に「hiroshige」「hokusai」などと、作者名やキーワードを英語で入力します。
③表示された各作品のクレジット表記をもとに作品名(例えば「Fugaku sanjūrokkei」)を検索すると、作品の絞り込みができます。
④使用したい作品の画像をクリックすると、1作品ごとの詳細ページが開きます。
⑤詳細ページのダウンロードボタンを押すと、画像データがダウンロードできます。
画像利用のルール
画像を利用(掲載)する際は、各サイトの利用規約をもとにクレジット(出典)を記載します。
英語で読めない!という場合は、サイト上でマウスを右クリックして「日本語に翻訳」を選択すると、日本語表記になります。
どのデジタルアーカイブも基本的には、作品の詳細ページに記された出典「作家名、作品名、日付、所蔵先」を記載するというのが作品利用のルールです。参考文献として「作者、書名、刊行年、版元」を記載するのと同じです。
ただしここで紹介したサイトはすべて英語圏なので、日本向けに公開する場合は出典も日本語表記に直します。
ウェブ上で利用する場合は、「作品ページのURL」のリンクを貼ることが推奨されています。

左の画像)葛飾北斎『富嶽三十六景』シリーズ「神奈川沖浪裏」1826–1836年(シカゴ美術館所蔵)
右の画像)歌川広重「東海道五十三次 日本橋」1832–1847年(シカゴ美術館所蔵)
江戸時代の浮世絵は著作権が切れているので、ここで紹介した各文化施設のデジタルアーカイブに公開されている作品は、いずれもパブリックドメイン画像として商用利用が可能です。
検索手順、ダウンロード手順、クレジット表記など、さらに詳しく知りたい方は下の記事を参考にしてみてください。
4.さらに浮世絵を探す方向けの追加情報
浮世絵コレクションのデジタルアーカイブとして、「有名な作品を多く所蔵し、作品数が豊富で、所蔵機関として信頼できる」の3つの要素を満たすサイトは、2025年5月時点で、ここまでに紹介した4つに絞られるのではないかと思います(もちろん作品ごとにおすすめのサイトが異なることは大前提として)。
さらに浮世絵を探したい方向けに、この4選よりは種類がだいぶ少ないけれど、そこそこ浮世絵を公開しているデジタルアーカイブを追加で3つ紹介します。
●ロサンゼルス・カウンティ美術館(アメリカ)
●スミソニアン博物館(アメリカ)
●ニュージーランド国立博物館
日本の美術館も含めて浮世絵のデジタルアーカイブを調べた結果、マルチに活用できるサイトはすべて海外になりました。日本の美術館はデジタルアーカイブで閲覧はできても、使用には申請が必要で自由にダウンロードできないことが多いです。
より幅広くパブリックドメイン作品を探したい方へは、総合的な方法論を書いた次の記事をおすすめします。
●【パブリックドメインの活用法】著作権切れの書物や浮世絵画像の入手方法と使用のルール
パブリックドメインを活用する際の実践ガイドです。
●【作品利用の新ルール】CCライセンスを解説
著作権とライセンスの関係性とは? 作品利用のオープン化に伴う基礎知識と、その代表格CCライセンス(クリエイティブ・コモンズ・ライセンス)の解説記事です。
●画像利用で著作権侵害を防ぐためのチェックリスト【複製・転載・引用の手引き】
著作権法でのルールに基づき、画像利用で押さえておくべきポイントを解説しています。
●【デジタルでの創作と著作権】解説記事一覧